虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
病気・治療を知る
虚血性心疾患とは
心臓は身体中に血液を送り出している臓器ですが、心臓自体も常に血液を必要とします。このため大動脈の付け根の部分から、心臓自体に血液を供給するための動脈が生えており、これを冠状動脈と言います。
この冠状動脈に狭窄や閉塞が生じ、心臓に必要十分な血液が供給されなくなること(心筋虚血)により起きる病気を虚血性心疾患と言います。心筋壊死の程度により、狭心症と心筋梗塞に分かれます。
なお、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症などの生活習慣病をお持ちの場合や、喫煙の習慣のある(または、かつてあった)場合、ご家族に虚血性心疾患の方がいらっしゃる場合などは、そうでない場合と比べてこの疾患にかかる可能性が高く、普段からの注意が必要です。
狭心症と心筋梗塞の違い
「狭心症」が進んだ状態が「心筋梗塞」です。
狭心症
●冠状動脈の状態
狭心症は、心臓へ栄養を送る「冠動脈」という血管が狭くなって起こるものです。動脈硬化が徐々に進み「プラーク(コレステロールの塊のようなもの)」ができて血管が狭くなる状態が狭心症です。
●症状の特徴
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運動した時の圧迫されるような胸の痛み
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胃の痛みや不快感、肩凝り、歯茎の痛みなどが現れることもある
※数分から15分程度でおさまります。
狭心症の症状
「静かに座っているときはなんともないのに、坂道や階段を登ると胸が痛くなる。立ち止まってしばらく休むと症状が落ち着く。」
というのが典型的な症状です。
痛みに限らず、胸の締め付け感や圧迫感、時には腕の痛みや頸部の締め付け感などを自覚する場合もあります。
安静時に比べて、歩行などの体動時には臓器がより多くの血液を必要とし、血液を循環させるポンプである心臓の仕事量も増えます。結果として心臓自体も酸素・エネルギーの消費量が増加し、必要とする血液の量が増えるのですが、冠状動脈に狭窄が存在する場合には心筋に必要な血液が供給されず、需要と供給のバランスが崩れます。これにより起きる症状を狭心症と言います。
狭心症の分類
●(安定)労作性狭心症
仕事をしたり、激しい運動をしたときに起こる狭心症です。
発作は生ずるものの、安定した一定の発作閾値(発作が生ずる運動の程度)があり、発作の頻度も含めて変化に乏しいのが特徴です。
●不安定狭心症
最近発作が生ずるようになった、発作の回数がだんだんと増えてきている、より少ない労作で発作が生ずるようになった、発作の時間が長くなってきている、など症状に変化がある狭心症です。
心筋梗塞に移行しやすい状態と考えられます。
この不安定狭心症と心筋梗塞、さらには心臓突然死をひとまとめにして「急性冠症候群」と言い、専門医による緊急治療を要する病態です。
●異形狭心症
動脈硬化性プラークによる狭窄病変をお持ちでない方でも、病歴や心電図変化から狭心症と診断される場合があり、これを「異形狭心症」と言います。
冠動脈の壁には必要に応じてその太さを調節している血管平滑筋という筋肉が存在します。これが発作的に異常に収縮(「攣縮」)することで、冠動脈を締め上げて心臓への血液の供給を妨げるために狭心症発作を引き起こします。
動脈硬化性病変による狭心症と異なり、夜間や早朝の安静時に発作を生ずる場合が多いと言われています。
狭心症の診断・検査
●問診
まずは、詳細に病歴(主訴、既往歴、家族歴、現病歴)をおうかがいするとともに、全身の身体所見(理学所見)をとります。これは全ての診療の基本的かつ最も重要な部分であり、決して蔑ろにしません。
●検査
この上で虚血性心疾患が疑われる場合には、心電図、胸部レントゲン、心エコー、採血検査などの院内で施行可能な検査を行い、診断を進めて行きます。また、必要に応じて、心筋シンチグラム(注1)や冠動脈CTアンギオ検査(注2)、カテーテルによる冠動脈造影(注3)などを施行可能な施設に依頼します。
最終的に確定診断が下った時点で治療方針についてのご説明をさせていただき、納得いただいた上で治療を行います。
注1:心筋シンチグラム検査
心臓に集積する性質を持つ放射性同位体を含む検査薬と特殊なカメラ(ガンマ・カメラ)を用いて、心筋血流の状態を画像化する検査です。心筋虚血の有無を判断する場合には、運動や薬物による負荷を併用します。
注2:冠動脈CTアンギオ検査
マルチスライスCT(多列検出器を持つ高性能CT)と造影剤を用いて、冠動脈の画像を得る検査です。実際の解剖に即した病変部位の診断が可能であり、狭心症の診断のみならず、カテーテル治療後のフォローにも多用されています。ただし、冠動脈の状態(特に石灰化の強い場合)や、収集中の脈拍、呼吸の状態によっては診断可能な画像を得られない場合があります。
注3:心臓カテーテル検査
専用に仕立てられた細い中空の管(カテーテル)を用いて、心臓を検査することを心臓カテーテル検査と言います。近年では可能な限り手首の動脈(橈骨動脈)からカテーテルを挿入する手技が主流となっています。
種々の検査項目がありますが、冠動脈造影(CAG)を行うことで狭心症の診断を行います。また、異形狭心症の診断にはCAGに加えて冠攣縮を誘発する検査(アセチルコリン負荷試験など)を行います。
狭心症の治療
内服薬治療(抗血小板薬や冠拡張剤の内服及び生活習慣病の治療)と血行再建術(経皮的カテーテル・インターベンション(PCI)及び冠動脈バイパス術(CABG))があります。
内服治療のみであれば、院内で治療が完結しますが、カテーテル・インターベンションやバイパス術をご希望される場合には、施行可能な施設へご紹介いたします。
●血行再建術
冠動脈の狭窄が確認され、かつ治療の適応ありと判断された場合に、カテーテルを用いて狭窄を解除する治療を行うことがあります(カテーテル・インターベンション:PCI)。病変部位で適切な大きさのバルーンを用いて血管を拡張することが基本ですが、現在ではステントという金属製の器具をしばしば病変に留置します。
治療後に一定の期間をおいて治療部位に再度狭窄が生ずること(再狭窄)と、生涯にわたって抗血小板薬の内服を要することが問題点ですが、近年のステントの改良は目覚ましく、再狭窄率は非常に低い値となってきています。院長自身、開院の半年前まで20余年にわたりこの治療に携わっており、多数の患者様の治療を通して経験を積んできました。
心筋梗塞の診断・検査
一刻を争う疾患ですので、病歴及び理学所見を同時にとりながら、検査も並行して行います。
最も重要であり、特異的な検査は心電図です。ST上昇など特徴的な所見が得られる場合もありますが、軽度のST低下のみの場合や、ブロックや頻脈が目立つ場合などもあります。院長は心臓救急の現場で多くの心筋梗塞の患者様に対応してきた経験から、典型的でない心電図変化も見逃さないよう、常に細心の注意を払って読影を心がけています。
また、採血所見(血算、血液生化学)の所見や、胸部レントゲン、心エコー所見も重要であり、総合的に診断を進めます。なお、いずれの検査も当院にて迅速に行うことが可能です。
診断が確定した場合、冠疾患を専門に治療できる集中治療室(CCU)を持つ病院での入院治療が必要となります。このため、できるだけ早く受け入れが可能な病院を探して救急搬送させていただくことになります。
心筋梗塞の治療
現在では出来うる限り緊急でのカテーテル検査・治療を行うことが基本となっています。具体的には冠動脈造影により責任病変を特定し、必要に応じて病変に存在する血栓を吸引・回収します。続いてバルーンよる病変の拡張とステントの留置により、心筋への血流を回復させます。
この際、お体の状態に応じて酸素投与や人工呼吸器を使用したり、体外式ペースメーカによる脈拍の保証を行う場合があります。さらに重症の場合には大動脈内バルーンパンピング法(IABP)や経皮的心肺補助法(PCPS)などの循環補助機器を使用する場合もあります。
術後は状態に応じて集中治療期間が設定され、心電図モニターや薬物治療が継続されます。また、心不全や不整脈などの合併症に対しても厳重な管理が行われます。
安定後には心臓リハビリテーションを段階的に行い、退院を目指します。近年、入院期間は短くなる傾向にありますが、概ね発症から10日から21日程度の施設が多いようです。
ご退院後の内科治療
●陳旧性心筋梗塞
発症から一ヶ月を経過されると、急性心筋梗塞から陳旧性心筋梗塞という診断名に変わります。
これは壊死心筋が炎症と繊維化というプロセスを経て、比較的強固で安定した状態になったことを示します。
●もう二度と心筋梗塞を起こさないための治療
心筋梗塞発症後、退院後速やかに社会復帰される方も多い反面、梗塞サイズが大きく心不全に苦しまれる場合や、不整脈の発作に悩まされる場合も少なくありません。また、責任病変以外にも冠動脈に狭窄をお持ちであるため、狭心症が残っていたり、追加のPCIを待っている状態の方もいらっしゃると思います。
ご退院後の内科的治療は、当院にて受けていただくことが可能です。
この場合、もちろん急性期治療を担当してくださったドクターと密接な連携をとります。ステント留置後に必要な抗血小板薬の管理や、今後の画像検査を含む治療・検査スケジュールの設定に加え、心不全、不整脈などの合併症治療は院長の最も得意とするところです。
なお、心筋梗塞後で最も大切なことは「もう二度と心筋梗塞を起こさない」、つまり二次予防を確実に行うことです。このためには食事や運動の見直しを基本とした生活習慣病の治療が非常に重要な位置を占めています。こちらについてもご相談の上、個々人にあった生活スタイルと治療方針をご提案させていただきます。